腰痛には何がいい?

その腰痛アプローチ、もう古いかも? 最新レビューが教える運動療法+αの効果

臨床で慢性的な腰痛の患者さんを担当することは本当に多いですよね。最近では、腰痛の原因は一つだけじゃなく、遺伝的なことや心理的なこと、そして「ライフスタイル」といった色々な要因が複雑に絡んでいると言われています。

そんな中、2024年にこの「ライフスタイルへの介入」に焦点を当てた、すごく面白いシステマティックレビューとネットワークメタアナリシスが出たので、皆さんにシェアしたいと思います。20もの研究データをまとめて、「結局どのアプローチが痛みの強さや機能障害の改善に一番効果があるの?」というのを明らかにしてくれたんです。

この記事では、この最新のレビューを基に、僕たちセラピストが慢性腰痛の患者さんに対して、もっと効果的で広い視野を持った治療プログラムを組み立てるための新しい視点や具体的なアプローチについて考えていきます。

結局どの治療法が効果的?ネットワークメタアナリシスが示す答え

このレビューのすごいところは、「ネットワークメタアナリシス(NMA)」という方法を使っている点です。これは、色々な治療法をまとめて比較して、「結局どれが一番効果あるの?」というのをランキング形式で示してくれる、とても信頼性の高い分析方法なんです。

Effects of Lifestyle Interventions on the Improvement of Chronic Non-Specific Low Back Pain: A Systematic Review and Network Meta-Analysis - PubMed Chronic non-specific low back pain (CNSLBP) is a highly preva pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

そして、その分析の結果、慢性腰痛に対するアプローチは、何か一つだけを行うよりも、複数の要素を組み合わせたアプローチ(マルチモーダル)の方が優れていることがハッキリと示されました。

痛みの強さを改善するのに最も効果的だったアプローチ:

  1. 認知療法と機能的運動プログラムの組み合わせ

  2. 腰椎スタビライゼーションエクササイズ

  3. レジスタンスエクササイズ

機能障害(日常生活のしづらさ)を改善するのに最も効果的だったアプローチ:

  1. 機能的運動プログラム

  2. 有酸素運動

  3. 標準的なケア(マニュアルセラピー+一般的な運動)

この結果から見えてくるのは、いつもの筋力強化やストレッチといった身体的なアプローチに加えて、考え方や心理的な側面へのアプローチがめちゃくちゃ重要だということです。特に痛みを減らすことにおいては、「認知療法」を含むプログラムがトップにきています。これは、痛みが単なる身体の感覚だけじゃなくて、その人の考え方や気持ち、行動と深く関わっている「体験」だっていうことですよね。まさに生物心理社会モデルの考え方そのものです。

僕たちセラピストは、運動を指導するだけじゃなくて、患者さんの痛みに対する考え方(「この痛みはもう治らないんじゃないか」といった破局的思考など)や、痛みを怖がって動けなくなってしまう恐怖回避思考、そして「自分ならできる」と思える自己効力感といった心理社会的な部分も評価して、必要なら認知行動療法的なアプローチ(痛みの教育や、段階的な活動計画、目標設定など)をプログラムに組み込んでいく必要があります。運動療法と心理的なアプローチを組み合わせることが、最大の治療効果を引き出すカギなんです。

「機能的運動プログラム」って何がすごいの?

痛みの強さと機能障害の両方で高い効果を示した「機能的運動プログラム」は、これからの腰痛治療の主役になっていく考え方だと思います。レビューの中では、このプログラムは決まりきったエクササイズを処方するのではなく、次のような特徴を持つアプローチとされています。

・痛みの神経科学教育: 痛みのメカニズムを患者さんに理解してもらい、痛みに対する恐怖を減らす。
・患者さん中心の自己管理戦略: 患者さん自身が症状をコントロールできるという感覚(自己効力感)を高める。
・個別化された運動: 一人ひとりの評価に基づいて、日常生活や仕事で困っている動作の改善に直接つながる運動を選択する。

これは、ただ「弱い筋肉を鍛える」「硬い筋肉を伸ばす」だけのアプローチから抜け出すことを意味しています。例えば、ある患者さんの問題が「長時間座っているのが辛い」ことであれば、その背景にある体幹の持久力低下や股関節の筋肉の硬さ、不適切な座り方といった複数の要因を見つけ出し、それらを改善するための包括的なプログラムを立てます。エクササイズも、腹横筋を働かせるといった基本的なものから始めて、最終的には正しい姿勢で座り続ける、椅子から立ち上がるといった、より生活に即した課題へと発展させていくべきです。

腰椎スタビライゼーションやレジスタンスエクササイズも高い効果が示されていますが、これらも「機能的運動プログラム」という大きな枠組みの中で、患者さんの状態に合わせて適切に選択していくツールとして捉えるのが良いかなと思います。

ライフスタイルへの介入:僕たちセラピストの役割の変化

このレビューのタイトルにもあるように、「ライフスタイルへの介入」は慢性腰痛を改善する上でとても重要なテーマです。レビューでは、身体活動を増やすこと、健康的な生活習慣(栄養、禁煙、睡眠など)へのアプローチ、座っている時間を減らすといった介入も評価されています。

その結果、ただ健康情報を渡すだけでは効果が薄く、モチベーションの維持や、ポジティブな声かけ、専門家による継続的なサポートが成功のカギになることが示唆されました。これは、僕たちセラピストの役割が、院内での運動指導だけにとどまらず、患者さんの日常生活全体にわたる健康的な行動をサポートする「ヘルスコーチ」のような視点を持つ必要がある、ということだと思います。

例えば、歩数計とインターネットを使ったウォーキングプログラムが機能障害の改善に効果があったことは、テクノロジーを使って院外でのサポートをする可能性を示していますよね。ウェアラブルデバイスなどで患者さんの活動量をチェックして、定期的にオンラインでフィードバックするといった介入は、これからの理学療法の新しい形になるかもしれません。

このレビューから学べる臨床のヒントまとめ

・マルチモーダルアプローチを取り入れよう: 運動療法に認知行動的アプローチや痛みの教育を組み合わせることで、特に痛みの改善効果が高まります。
・「機能」を重視しよう: 筋力や柔軟性だけでなく、ADLや仕事の動作といった「機能」の改善を最終目標にしたプログラムを考えましょう。
・ライフスタイルに関わっていこう: 患者さん自身がセルフマネジメントできる能力を高め、身体活動を増やすといった具体的な行動変容を促すための継続的なサポートを提供することが大切です。
・一つの方法に固執しない: ピラティスやヨガ、マッケンジー法など、色々な運動療法がありますが、どれか一つが万能というわけではありません。患者さんの好みや身体機能、心理的な背景を考えて、最適なツールを柔軟に組み合わせることが重要です。

このシステマティックレビューは、慢性腰痛に対する僕たちの理解を深め、よりエビデンスに基づいた効果的な治療への道筋を照らしてくれます。僕たちセラピストは、常に新しい知識を取り入れて、目の前の患者さんにとって何がベストなのかを考え続ける姿勢が大事ですよね。