
「前が詰まる」と言われた瞬間
しゃがみ込みを見ていると、片側の踵が先に浮く。患者さんに聞くと、「足首の前が詰まって、これ以上は行けません」と言う。こういう場面、ありますよね。
前方に症状が出ていると、前方組織に目が向くのは自然です。患者さんが示している場所も前ですし、実際にそこで動きが止まって見えます。だから、その見立て自体を否定する必要はありません。ただ、症状が出ている場所と、背屈を許すために不足している関節運動は、いったん分けて考えたいんですよ。
荷重位で背屈するときに確認したいのは、距骨の相対的な後方滑りです。患者さんは前方の詰まりを訴えていても、評価する運動は後方滑りになる。症状が前にあるからといって、問題まで前方にあるとは限らないって話ですね。

そして、背屈が足りなくても身体はその場で止まりません。しゃがむという課題を続けるために、別の動きを使います。まず見るべきなのは詰まりを訴えた場所だけではなく、その瞬間に全身がどうやってしゃがみ込みを続けたかなんですよ。
しゃがめていることが、背屈できている証拠にはならない
脛骨が前へ進めないとき、患者さんはしゃがみ込みそのものを中止するとは限りません。踵を浮かせる、足部を外転させる、左右のどちらかへ荷重を逃がす、体幹を前傾させる。そうやって必要な運動を別の場所でつくります。

見た目としては重心が下がっているので、「スクワットはできている」と判断したくなるかもしれません。でも、しゃがめたことと、踵接地のまま脛骨前傾を使えたことは同じではないんですよね。課題を完了できている患者さんほど、代償がうまく隠れていることがあります。
Beforeで見たいのは、脛骨前傾がどこで止まり、その直後に何が起きたかです。踵が浮いたのか、体幹前傾が増えたのか、荷重が反対側へ偏位したのか。Afterでは、背屈を確保したことで踵接地のまま重心が下がるかを見ます。
ただし、踵浮きや足部外転、荷重偏位、体幹前傾だけで背屈制限とは決めません。これらは背屈制限に特異的な所見ではないからです。動作で仮説を持ったら、荷重位背屈テストへ移る。動作観察は答えを出す場ではなく、次に何を確かめるかを決める場なんですよ。
脛骨が前へ進むとき、関節内では何が起きているか
足部が床に固定された荷重位では、見た目には脛骨が足部の上を前方へ進みます。ここだけを見ると、「脛骨が動いている」と捉えたくなりますよね。でも関節内では、その脛骨前傾に対応して、距骨が果部の中を相対的に後方へ滑る必要があります。

ここでいう後方滑りは、距骨が目に見えて大きく移動するような運動ではありません。関節面で起きる小さな副運動です。見えている脛骨前傾の裏側に、見えにくい距骨の相対的後方滑りがある。この二つを別々の出来事として扱わないことが大切ですね。
荷重位背屈をみるときは、脛骨が前へ進んだかだけで終えません。踵が接地したままなのか、前足部へ荷重が滑らかに移ったのか、その条件で脛骨前傾が出たのかを揃えて見ます。脛骨が前へ倒れたように見えても、踵が浮いていれば、確認したかった荷重位背屈とは条件が変わってしまいます。
外から大きく見える動きだけが、制限の中心とは限りません。患者さんのしゃがみ込みを変えているのが、関節面の小さな副運動である可能性を持っておくってことです。
前方の詰まりだけでは、後方滑り不足とは決められない
背屈制限を見つけると、すぐに距骨後方滑りへ介入したくなるかもしれません。ただ、背屈の律速因子は一つではありません。今回の中心は後方滑りですが、評価では関節、筋腱、疼痛反応を分けて確認します。

関節内で見るのは、距骨後方滑りと距腿関節の適合です。筋腱では、腓腹筋、ヒラメ筋、アキレス腱の伸張性を見ます。症状反応としては、前方の詰まりなのか、後方の伸張感なのか、疼痛部位はどこなのかを確認します。さらに膝伸展位と膝屈曲位の差、終末感も重ねます。
カルテに「足関節背屈制限あり」と一行だけ残すと、次の介入候補が見えません。「膝伸展位と屈曲位でどう違ったか」「前方抵抗か、後方伸張感か」「後方滑りに左右差があったか」まで分けておくと、同じ背屈制限でも中身が見えてきますよね。
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