急性腰痛に運動療法って?

急性腰痛に運動療法って本当に効くの?

「腰痛には運動が良い」— この考えは、私たち理学療法士の間ではもちろん、一般の方々にも広く浸透していますよね。特に、慢性的な腰痛に対する運動療法の効果は、たくさんの研究で証明されていて、誰もが納得するところだと思います。

でも、一方で「急性期」の腰痛、つまり痛くなってからまだ6週間経っていないような腰痛に対して、運動療法って本当に有効なのでしょうか? 私自身も若い頃は、急性腰痛の患者さんに対して「何か効果的な運動を処方しなければ」と、少し焦りを感じた経験があります。

そんな臨床での素朴な疑問について、エビデンスの世界で最も信頼性が高いとされるコクランレビューが、2023年に最新の見解を発表しました。世界中のセラピストが注目するこの大切な報告について、私の経験も交えながら、一緒に考えていきたいと思います。


どんな研究をまとめたの?:23件の研究、2674名のデータ

IJzelenberg W, Oosterhuis T, Hayden JA, Koes BW, van Tulder MW, Rubinstein SM, de Zoete A. Exercise therapy for treatment of acute non-specific low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews 2023, Issue 8. Art. No.: CD009365. DOI: 10.1002/14651858.CD009365.pub2.

このレビューは、急性腰痛(症状が6週間以内)の成人を対象に、運動療法の効果を調べた信頼性の高い研究(RCT)を、たくさんの論文の中から集めて詳しく分析したものです。最終的に23件の研究、合計2674名もの方々のデータがまとめられました。

レビューの大事なポイントは、次の2つの比較です。

  1. 運動療法 vs. "効いているように見せかけた"偽の治療: 運動療法そのものに特別な効果があるのかを調べる比較です。

  2. 運動療法 vs. 何もしない: 運動をすることが、自然に良くなる以上の効果があるのかを調べる比較です。

その他にも、徒手療法など他の治療法との比較も行われています。患者さんが一番気になる**「痛み」「日常生活のしやすさ(機能)」**がどう変わったかを主に評価しています。


少し意外な結論:「運動をしても、しなくても、あまり変わらないかも」

たくさんの研究をまとめた結果、導き出された結論は、多くのセラピストにとっては、少し驚くような、考えさせられる内容でした。

【著者らの結論を分かりやすく言うと…】

  • 偽の治療と比べても… 急性腰痛に対して、運動療法をしても、偽の治療をしても、痛みや機能の改善に大きな差はないかもしれない、とのことです。ただ、この点に関する研究の質は**「非常に低い」**とされています。

  • 何もしない場合と比べても… 運動療法をしても、何もしなくても、痛みや機能の改善に大きな差はないかもしれない、とのことです。こちらも、研究の質は**「非常に低い」**とされています。

  • 他の治療法と比べると… 運動療法は、他の保存療法と比べて、痛みや機能の改善に大きな差はない可能性が高いようです。これについては**「中程度」**の確からしさがあるとされています。

つまり、カンタンにまとめると、**「急性腰痛は自然に良くなることが多く、運動療法がその回復を特別に早めたり、痛みを大きく減らしたりする効果は、今のところハッキリとは言えない」**というのが、最新のエビデンスが示す結論のようです。

実際に私の臨床経験でも、多くの急性腰痛の患者さんは数週間で自然に軽快していくケースがほとんどです。この結果は、その自然な回復プロセスを邪魔しないことが大切、ということを教えてくれているのかもしれませんね。


私たち臨床家へのメッセージ:急性期のアプローチをもう一度考えてみよう

このレビューの結果は、「急性腰痛に運動療法は意味がない」という話では決してありません。むしろ、私たちセラピストに、急性期にどう関わっていくべきかを、もっと深く考える良いきっかけを与えてくれるものだと、私は思います。

1. 「何もしない」のではなく、「安心して動ける」よう導く

臨床で多くの急性腰痛の患者さんをみてきましたが、何よりもまず、患者さんの**「動いたらもっと痛くなるんじゃないか」という不安な気持ちに寄り添って、それを取り除いてあげることが一番大切**だと、日々痛感しています。このレビューの結果は、「安静にしすぎず、できる範囲で普段通りの生活を続けましょう」という国際的な推奨を後押ししてくれるものですね。

私たちの役割は、難しいエクササイズを教えることだけではありません。患者さんを安心させてあげて、恐怖心から動かなくなってしまうのを防ぐこと。ただ「安静にしないでください」と伝えるだけでなく、「このくらいの範囲なら動かしても安全ですよ」と具体的な活動レベルを示してあげることが、患者さんの安心につながるのです。

2. 目的は「治す」ことより「付き合い方を教える」こと

急性期における運動療法の目的は、痛みを魔法のように「治す」ことではなく、「痛みを上手に管理する方法(マネジメント)」を一緒に見つけてあげることだと、少し見方を変えてみる必要があるのかもしれません。

私自身、急性期の患者さんには、痛みをゼロにすることを目指すのではなく、『痛みを自分でコントロールできる方法』を見つけるお手伝いをすることを大切にしています。例えば、痛みの出ない範囲での呼吸法や骨盤の軽い運動を指導するだけでも、『痛みをやり過ごす術を知っている』という感覚は、回復への大きな一歩になると、私は信じています。

3. みんな同じじゃない。個別のアプローチが必要

このレビューの限界として挙げられているのが、「急性腰痛」と一括りにしてしまっている点です。確かに、臨床の現場では**「この方は放っておいてもすぐに良くなりそうだな」と感じる患者さんと、「この方は少し長引くかもしれないな」と感じる患者さんがいるのは事実です。**

この臨床的な肌感覚を、客観的なツールで補いながら、「この方には早めの介入が必要そうだ」と判断していく視点が、これからの急性腰観アプローチにはとても大切になってくると感じています。


まとめ

2023年のコクランレビューは、私たちにとって少し厳しい、でも大切な結論を示してくれました。私もこのレビューを読み、急性期における理学療法士の役割について、改めて深く考えさせられました。

これは運動療法の価値を否定するものではなく、その役割と目的を見つめ直す素晴らしい機会です。

急性期における私たちの本当に大切な役割は、特異的なエクササイズで「治す」こと以上に、患者さん一人ひとりの不安に寄り添い、科学的根拠に基づいて安心を提供し、自分で回復していく力を引き出す『ガイド』としての役割にあるのだと、改めて確信しています。この学びを謙虚に受け止め、日々の臨床を大切にしていく。私たち専門家として、大切にしたい姿勢ですよね。

さらに詳しい運動療法の考え方や、具体的なエクササイズのバリエーション、臨床での悩みについて相談したい方は、ぜひ公式LINEにご登録ください。あなたの臨床力をもう一段階引き上げるためのヒントが、きっと見つかります。

無料22大特典↓

LINE 友だち追加 utage-system.com