有酸素運動をすると痛みが?

運動は痛みの感作を改善する「魔法の薬」か?有酸素運動のエビデンスを読み解く

皆さん、なかなか改善しない慢性的な痛みを抱えた患者さん、担当すること多いですよね。特に「痛みの感作」、つまり脳が痛みに過敏になってしまっている状態は、本当に厄介です。

正直、痛みが強い患者さんに「運動しましょう」って提案するの、僕も昔はすごくためらいがありました。「悪化させたらどうしよう…」って不安になりますよね。でも、近年のエビデンスは、特に有酸素運動が、この厄介な「痛みの感作」を改善する「魔法の薬」になり得ることを示してくれているんです。

今回は、2022年に発表されたシステマティックレビューを基に、有酸素運動が痛みの感作にどう影響するのか、その科学的根拠を整理して、僕たちの臨床でどう活かせるかを考えていきましょう!


エビデンスのまとめ:有酸素運動は痛みの感作を確実に軽減する

Does aerobic exercise effect pain sensitisation in individuals with musculoskeletal pain? A systematic review - PubMed These findings provide evidence that aerobic exercise reduces pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

このレビューでは、最終的に11件の研究、合計590名もの患者さんのデータが分析されました 。そして、ものすごく一貫した結論が出たんです。

【主な結論】

レビュー対象となった11件の研究すべてが、「有酸素運動は筋骨格系疼痛患者の痛みの感作を軽減する効果がある」と報告した 。

具体的には、圧痛を感じにくくなったり(圧痛閾値の上昇)、痛みのスコアが低下したりといった改善が確認されています 。改善率の中央値は約10.6%で、これは運動が痛覚過敏を抑える、つまり鎮痛効果を持つことを強く示しています 。


どんな運動が有効だったのか?臨床で使える運動処方

では、具体的にどんな運動が効果的だったんでしょうか。

  • 運動の種類: ほとんどがウォーキングかサイクリングでした 。特別な器具もいらず、多くの患者さんが取り組みやすいですよね。

  • 運動強度: 「亜最大強度」で行うのがポイントです 。きつすぎず、でも楽すぎないレベルで、徐々に強度を上げていくのが良いようです。

  • 運動時間と頻度: 1回あたり最短4分からでも効果が確認されており、臨床試験では週に最大5回、最長12週間続けられていました 。

つまり、「少し息が上がるくらいのウォーキングやサイクリングを、まずは短時間から始めてみましょう」という指導には、しっかりとした科学的根拠があるということですね。


なぜ効くのか?EIHと言語化、そして呼吸の役割

この鎮痛効果のメカニズムは、僕がセミナーでもよくお話しする「運動誘発性低痛覚(EIH)」が大きく関わっています 。運動をすることで、脳から痛みを抑える物質(内因性オピオイドなど)が放出され、体自身が持つ鎮痛システムが活性化するんです。

だからこそ、僕たちセラピストの「言語化」が重要になります。「なぜこの運動が痛みに効くのか」を、このEIHの仕組みを使って簡単に説明してあげるんです。「運動すると、脳から痛みを和らげる魔法の物質が出るんですよ。だから、少し動いてみましょう」と伝えることで、患者さんの不安を和らげ、前向きに取り組んでもらいやすくなります 。

さらに僕なら、この有酸素運動に呼吸法を組み合わせることを提案しますね。僕の資料でも触れていますが、呼吸数をコントロールすること自体に疼痛を抑制する効果が期待できます 。ウォーキング中に、例えば「5秒吸って、5秒吐く」といったゆっくりとした呼吸を意識させることで、EIHの効果をさらに高められる可能性があります。


臨床での注意点:運動が逆効果になるケースも

このレビューで最も重要なのは、「運動が万能薬ではない」という事実も示されたことです。

一部の研究では、痛みを抑制する神経の機能がもともと低下している患者さんや、運動中に痛みが増強してしまう患者さんでは、有酸素運動が逆効果になる可能性が示唆されました 。

だからこそ、画一的なプログラムは絶対にダメなんです。まずはごく低強度、短時間から始めて、患者さんの反応(特に運動中の痛み)を注意深くモニタリングするという段階的なアプローチがめちゃくちゃ重要です。もし痛みが増すようなら、強度を下げたり、他の介入を考えたりする。この臨床判断こそが、僕たちの専門性ですよね。


まとめ

今回のレビューから、有酸素運動が「痛みの感作」という厄介な病態を改善するための、有効な非薬理学的介入であることが明確になりました。セラピストは、亜最大強度のウォーキングやサイクリングを、自信を持って患者さんに処方することができます。

しかし、全ての患者さんに同じ効果があるわけではありません。痛みのメカニズムを理解し、EIHのような体の仕組みを患者さんに言語化して伝え、呼吸法などを組み合わせる。そして何より、一人ひとりの反応を見ながら段階的に負荷を調整していく。

僕たちセラピストに求められるのは、このエビデンスを武器に、目の前の患者さんをしっかり評価して、最適な運動を処方していく専門性と言えるんじゃないでしょうか!