
こんにちは、小林龍樹です。
はじめに:なぜ「肩甲骨のコントロール」はこれほど重要なのか?
肩関節のリハビリにおいて、肩甲骨が正しくコントロールされているかは、機能回復のまさに要になってきますよね。インピンジメント症候群や腱板損傷といった障害の背景には、肩甲骨の上方回旋や後傾、外旋が不足しているケースが関与することがよく知られています。
肩甲骨の動きは、僧帽筋の上部・中部・下部線維と前鋸筋が協調して働くことで成り立っています。特に僧帽筋下部線維(LT)は、腕を高く挙げる際に肩甲骨を後傾させて保持するために不可欠です。逆に、上部線維(UT)ばかりが優位に働くと、肩甲骨の動きのバランスが崩れ、痛みや機能低下に直結してしまいます。
そこで今回は、体幹の回旋を伴う肩関節運動が、肩甲骨周りの筋活動や肩甲骨自体の動きにどう影響を与えるのかを明らかにした研究を基に、臨床での活かし方を考えていきたいと思います。
検証!どんな研究が行われたのか?
今回の研究では、肩関節に痛めた経験のない健常な男性13名(平均21.5歳)を対象にしました。 以下の6種類のエクササイズを、「体幹の回旋あり」と「回旋なし」の条件で比較しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25556806/
【立位でのエクササイズ】
-
スキャプション(Scaption)
-
1st ER(肩45°内旋位・肘90°屈曲位での外旋運動)
-
2nd ER(肩90°外転位・肘90°屈曲位での外旋運動)
【腹臥位(うつ伏せ)でのエクササイズ】
-
リトラクション45°(肩45°外転位)
-
リトラクション90°(肩90°外転位)
-
リトラクション145°(肩145°外転位)
体幹の回旋は、動かす腕の側へ最大まで回旋(ipsilateral rotation)してもらいました。 筋活動は表面筋電図で僧帽筋(上部・中部・下部線維)と前鋸筋を記録し、肩甲骨の動きは三次元動作解析装置で測定しています。
驚きの結果!「体幹回旋」がもたらす2つの大きな変化
【立位エクササイズの結果】
立位でのエクササイズでは、Scaptionにおいて体幹を回旋させることで、肩甲骨の外旋と後傾の角度が有意に増加しました。同時に僧帽筋の中部・下部線維の筋活動が高まり、結果として上部線維の過活動を抑えつつ下部線維が優位な理想的な筋活動パターンへと改善が見られました。1st ERでも同様に、下部線維と前鋸筋の活動が増加しました。注目すべきは、その活動が低~中強度であった点で、リハビリ初期にも応用できる可能性が示唆されます。2nd ERでは、肩甲骨の外旋角度が増加し、僧帽筋の活動が全体的に高まる結果となりました。
【腹臥位エクササイズの結果】
腹臥位でのエクササイズでは、Retraction 45°では有意な差は見られませんでした。Retraction 90°では、体幹回旋により僧帽筋上部線維の活動が有意に低下し、僧帽筋全体のバランス改善に繋がることが示唆されました。Retraction 145°では、上部線維の活動が低下した一方で、下部線維は非常に高い活動を示しました。これは、高強度で下部線維を強化しつつ、上部線維の過剰な活動を抑制できる可能性を示しています。
明日から使える!臨床でのエクササイズ処方箋
今回の結果から、臨床で応用できるポイントがいくつか見えてきますね。
-
僧帽筋下部線維の活動を高めたい場合
-
Scaptionや1st ERに体幹回旋を加えるのが有効です。特にScaptionは、上部線維の過活動を抑えつつ適度な負荷をかけられるため、下部線維が弱い患者さんに適していると考えられます。
-
-
リハビリ初期や代償が出やすい場合
-
低負荷な1st ER+体幹回旋で神経筋の再教育を行うのがおすすめです。
-
-
上部線維の過活動が目立つ場合
-
Retraction 90°+体幹回旋がその活動を顕著に抑えるため、筋バランスの修正に非常に有用です。
-
-
高負荷で強化したいスポーツ復帰段階など
-
2nd ER+体幹回旋やRetraction 145°+体幹回旋といった使い分けが考えられます。
-
まとめ
今回の研究からは、患側への体幹回旋が、肩甲骨周りの筋活動パターンと肩甲骨の動きに有意な変化をもたらすということが示されましたね。特に、僧帽筋下部線維の活動を促進し、上部線維の過活動を抑制するという、臨床において非常に価値のある2つの結果が確認できました。
皆さんの臨床でも、患者さんの評価結果に基づいて、体幹回旋をエクササイズに組み込むという視点を持ってみてください。そうすることで、より効率的に肩甲骨の機能改善を図ることが可能になるはずです!