
棚へ手を伸ばした瞬間、内側縁が浮いた
患者さんに棚の物を取ってもらったら、肩甲骨内側縁がふっと浮いて、手先も少し揺れた。後ろから見ていると、「これは前鋸筋の出力低下だな」と考えたくなりますよね。その見立て自体が間違いという話ではありません。僕らが一度止まりたいのは、その見た目だけで原因まで決めてしまっていないか、というところなんです。

翼状化には、長胸神経障害、僧帽筋や菱形筋の機能不全、構造的要因、そして課題依存の運動制御低下が含まれます。つまり、肩甲骨内側縁が浮いていることは結論ではなく、評価を始める入口なんですね。
では、何をするか。安静立位を見て終わらず、壁プッシュアップと前方リーチで再現条件を確かめます。前鋸筋由来の内側翼状化は、前方挙上や壁へのプッシュ動作で強調されることがあります。見えた翼状化に名前を付けるより、どの課題で現れるかを確かめるほうが、次の一手につながるんですよ。
立っているだけでは、問題が見えないことがある
安静立位では、左右の肩甲骨に大きな差がない。カルテにも「立位安静時、肩甲骨の左右差は小さい」と書ける状態です。ここだけを見ると、肩甲帯に目立った問題はないように感じますよね。

ところが、両手を壁について押してもらうと内側縁が浮く。次に前方へリーチしてもらうと、手先が安定しない。静止画では隠れていたものが、課題を加えた途端に表へ出てくるわけです。
安静で左右差が小さいことは、肩甲骨の機能が保たれている証明にはなりません。むしろ確認したいのは、手で壁を押すとき、前方へ手を伸ばすときに、肩甲骨と胸郭の接触が保たれるかどうかです。Beforeが「立位安静では左右差が小さい」、Afterが「壁プッシュアップで内側縁が浮き、リーチが不安定になる」なら、その差そのものが評価材料になるんですね。
前鋸筋は、肩甲骨を外へ動かすだけではない
前鋸筋を見るとき、「肩甲骨を外転させる筋」として出力を確認することがあります。もちろん外転は大事です。ただ、そこで筋力だけを拾うと、実際のリーチで起きていることを取りこぼすかもしれません。

前鋸筋の仕事は、肩甲骨を外転させることだけではないんですよ。胸郭の曲面に肩甲骨を沿わせたまま、上方回旋、後傾、外旋に関与し、上肢が動くための土台を作ります。動かすことと、胸郭への接触を保つことが同時に求められるわけですね。
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