代償が起きている肩関節挙上

手が壁に届いた、そのとき腰はどうなっていますか

患者さんに立位でバンザイをしてもらうと、両手は頭上まで上がって壁にも届く。見た瞬間は「肩屈曲は出ていますね」と判断したくなる場面です。けれど、挙上の途中から下位肋骨が前上方へ浮き、終末域では腰のすき間が大きくなっている。こういう動き、臨床で見かけませんか。

手が頭上へ届いたことと、肩が十分に動いたことは同じではないんですよ。見えているのは身体全体でつくった到達点であって、肩関節だけの可動域ではありません。肩屈曲可動域が小さいほど、上肢挙上位で腰椎前弯が大きいという報告もあります。だから肩と腰は、別々の所見としてではなく、同じ挙上動作の中で見ておきたいんですね。

しかも、確認したいのは最大到達点だけではありません。どの位置から下位肋骨が浮いたのか、どこから腰のすき間が増えたのか。その開始点に目を向けると、見かけの可動域の中に何が含まれていたかが見えてきます。肩屈曲では後半ほど胸椎伸展の寄与が大きくなると報告されていますが、必要な胸椎伸展と腰椎で稼ぐ動きは分けて考える必要がありますよね。

120度まで保てても、終末域で動きは変わります

肩屈曲約120度までは腰椎位置が保たれている。ところが、そこを越えて頭上へ近づくと、下位肋骨が上がり、腰椎伸展が加わる。BeforeとAfterを並べるなら、この変化がいちばん見たいところです。最終的に何度まで上がったかだけを記録すると、途中まで保てていた動きがどこで切り替わったのかは残りません。

途中域がきれいだから、終末域も肩で動けているとは限らないんですね。代償は最初から大きく出るとは限らず、終末域に入ったところで急に目立つことがあります。肩屈曲の不足が、到達点だけを見た評価では隠れてしまう理由です。

ですから観察では、腕の挙上に合わせて腰椎位置を追い続けます。約120度では腰椎位置を保てていたのに、その先で肋骨挙上と腰椎伸展が加わったなら、「頭上まで届いた」で終えず、変化が始まった位置を記録する。この一手間で、最大角度という結果だけではなく、そこへ至る運動戦略まで残せるって話です。

肩屈曲は上腕骨だけの運動ではありません

頭上へ腕を上げるとき、上腕骨の挙上だけが起きているわけではありません。肩甲骨の上方回旋と後傾、鎖骨の運動、胸椎の姿勢変化が連動しています。肩屈曲を評価するときは、肩関節、肩甲帯、脊柱骨盤という三部位の協調として捉える必要があるんですね。

体幹が動いたら、すべて代償というわけではありません。肩屈曲の後半では胸椎伸展の寄与が大きくなるため、胸椎を動かさないように固めればよい、という話でもないんですよ。必要な胸椎運動まで止めてしまうと、本来の協調そのものを変えてしまいます。

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