
所見を並べるだけでは仮説にならない
評価はしっかり取っている。それなのに、運動がなかなか決まらない。
もし心当たりがあるなら、今回の話は役に立つと思います。前回は、運動を選ぶ前に「変えたい現象」を1つ決める、という話をしました。今回はその次の段階です。決めた現象から、どうやって仮説を作るか。
先に結論を言っておきます。持ち帰ってほしいのは1つだけです。所見同士の関係を、1本の因果でつなぐ。これだけです。
所見はあるのに、決まらない
カルテを開くと、所見はちゃんと並んでいます。
ハムストリングスのタイトネス。股関節伸展の可動域制限。体幹の筋出力低下。全部評価してあるんです。それなのに、じゃあ何をやりますか、となると手が止まる。
これは、評価が足りていないわけではありません。むしろ逆です。丁寧に評価している人ほど、この状態になりやすいんです。
全部つぶそうとしていないか
そこでよくやってしまうのが、陽性所見を全部つぶしにいくことです。
ハムが硬いからストレッチ。股関節が硬いからモビライゼーション。体幹が弱いからドローイン。気づいたらメニューが5つくらいになっている、という状態ですね。
一見、丁寧で網羅的に見えます。でも、ここに落とし穴があります。
横に並んでいるだけでは、動けない
何が問題かというと、所見のリストは、ただ横に並んでいるだけなんです。
どれが原因で、どれが結果なのかが分からない。しかも全部やってしまうと、良くなっても何が効いたのか分かりません。患者さんの宿題も増えて、続かなくなります。
所見が多いほど迷うのは、能力の問題ではなくて、並べ方の問題なんです。拾える所見が増えるぶん、リストが長くなる。それだけのことです。知識を減らす必要はありません。並べ方を変えるだけで、同じ所見が急に使えるようになります。
現象にいちばん近い所見を、1つ選ぶ
やることは前回の続きです。
変えたい現象を決めたら、その現象にいちばん近い所見を1つ選びます。立ち上がりのときの膝内側の痛み、が現象なら、立ち上がりの動作に直接関わる所見はどれか。そう問い直すと、ここで候補が一気に減ります。
ハムのタイトネスは、立ち上がりに直接関わるでしょうか。関わらないなら、今回はいったん外します。捨てるのではなく、今回の現象には近くない、というだけです。
「AがBを起こしている」と、1つの文にする
そして、選んだ所見と現象を、1本の矢印でつなぎます。
例えばこうです。股関節の伸展可動域制限が、立ち上がりで骨盤の後傾を強めていて、その結果、膝に負担が集まっている。これで仮説になりました。
ポイントは、箇条書きではなく、1つの文にすることです。
文にすると、途中でつながらない場所が見えてきます。本当に骨盤の後傾は起きているのか。そこは見ていなかった、となったら、そこだけ追加で評価すればいいんです。矢印を書くと、次に取るべき評価まで決まる。これが、ただ並べているときとの大きな違いです。
触るのは上流、見るのは下流
仮説が1本の線になると、どこを触るかも決まります。
触るのは上流、この例なら股関節です。膝そのものには、まだ手を出しません。上流が変われば下流も変わるはず、という予想を持って介入する。これが検証になります。
再評価で見るのは、下流です。股関節が柔らかくなったかどうか、ではありません。立ち上がりのときの膝の痛みが変わったかどうか。ここを見ます。
上流が変わったのに下流が変わらないなら、その矢印は間違っていた、と分かります。可動域は広がったのに痛みは変わらない。つまり、股関節は関係していなかった。候補が1つ消えたということですから、迷いはむしろ減っています。矢印を引いておくと、外れたときにも情報が残るんです。
明日、1つだけ試すこと
明日やってほしいのは、所見を矢印で書いてみることです。
箇条書きを1つやめて、AがBを起こしている、と書いてみる。うまく矢印が引けないときは、評価が足りないのではなくて、現象が絞れていないことが多いです。そのときは前回の話に戻って、現象をもう一段、場面まで下ろしてみてください。
次回は、筋力低下か、代償かをどう見分けるか、という話をします。徒手の評価と動作の評価が、頭の中で別々になっている方に読んでほしい回です。
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