
膝の内側が痛い、という方を担当したとします。
問診も、可動域も、筋力も、ひととおり評価は終わりました。カルテには所見が並んでいます。さて、ここから何の運動を始めますか。
この場面で少し手が止まる。そういう方は、実はかなり多いんじゃないでしょうか。評価ができないわけではない。知識がないわけでもない。それなのに、運動を選ぶところだけが毎回すっきりしない。
今回は、その詰まりがどこから来ているのかを整理します。持ち帰ってほしいことは1つだけです。運動を選ぶ前に、変えたい現象を決める。これだけです。
「膝だから四頭筋」で決めていないか
いちばん多い選択は、とりあえず大腿四頭筋のトレーニング、だと思います。
膝の問題だから四頭筋。筋力低下があったから鍛える。教科書的にも間違っていませんし、私も昔はここから入っていました。実際、それで良くなる方もいます。
ただ、ここで一度立ち止まりたいんです。
四頭筋の筋力が上がっても、痛みが変わらないことがありますよね。数週間しっかりトレーニングをして、徒手での筋力は明らかに上がった。それなのに、階段を降りるときの痛みだけは残っている。そういう経過に心当たりのある方も、いるはずです。
理由はシンプルで、筋力低下は原因ではなく、結果かもしれないからです。
痛みがあって、その動きを避けている。避けているから使われない。使われないから弱い。この順番だったとしたら、弱くなった筋を鍛えるのは、流れ出た水を拭いているようなものです。元栓が閉まっていません。
もちろん、本当に筋力が必要な方はいます。ただ、鍛え始める前に一度、この筋力低下はどこから来たんだろう、と考えてみてほしいんです。
痛みではなく、場面まで絞る
では、何から始めるか。
運動を選ぶ前にやることがあります。変えたい現象を、1つだけ決めることです。
ここで大事なのが、粒度です。「痛み」という言葉のままだと大きすぎて、何を変えれば成功なのかが決まりません。だから、場面まで下ろします。
たとえば、椅子から立ち上がるときの、膝の内側の痛み。ここまで絞ります。
歩行時の痛みも、階段の痛みも、いったん脇に置きます。冷たいようですが、複数の現象を同時に追いかけると、どれも中途半端になります。まず1つ。それが変わったら次に進めばいいんです。
仮説は、当てるためではなく確かめるために立てる
現象が決まると、仮説が立てられるようになります。
立ち上がりを見てみたら、股関節がほとんど曲がっていなくて、膝から先に動いていた。だとすると、股関節が使えていないぶん、膝に負担が集中しているのではないか。
これが今日の仮説です。
ここで大事なのは、当たっているかどうかは、まだ分からないということです。分からなくていいんです。
仮説は、これから確かめるためのものであって、正解を言い当てるためのものではありません。1つ立てて、確かめて、違ったら次に行く。その1周目に入るための材料が、いま手に入ったということです。
経験を積むほど、いくつも仮説が浮かぶようになります。それ自体はいいことなんですが、浮かんだ順に全部やろうとすると、また元の詰まりに戻ります。今日確かめるのは1つだけ、と決めてしまうほうが前に進みます。
介入も1つだけ
仮説が決まったら、介入も1つだけ選びます。
この例なら、股関節から動く立ち上がりの練習です。お辞儀をするように体幹を前に倒してから立つ、あの練習ですね。四頭筋のトレーニングは、いったん置いておきます。
同時に2つやると、良くなっても何が効いたのか分からなくなるからです。
これは、丁寧さを削っているわけではありません。むしろ逆で、次に何をすればいいかを判断できる状態を守るために、あえて1つに絞っています。判断できない良い結果より、判断できる小さな結果のほうが、次につながります。
答え合わせを、その日のうちに終わらせる
そして、ここが今日いちばん大事なところです。
介入する前に、何で確かめるかを決めておきます。
今回なら、同じ立ち上がりをもう一度やってもらって、膝の内側の痛みが変わるかどうか。前と後で、同じ動作を見る。たったそれだけです。
よくあるのが、とりあえず2週間やってみましょう、と宿題にしてしまうパターンです。それだと、答え合わせが2週間後になります。もし仮説が外れていたら、その2週間は患者さんの時間ごと失われてしまう。
その場で1回やってもらって反応を見れば、答え合わせは今日終わります。
変化があれば、その仮説を残して次の段階に進む。変化がなければ、股関節ではなかったと分かる。どちらに転んでも、今日のうちに情報が1つ増えます。これが積み重なると、翌週からの進め方がまったく変わってきます。
明日、1つだけ試すこと
明日の臨床で試してほしいのは、1つだけです。
運動を選ぶ前に、変えたい現象を1文で書く。
「立ち上がりのときの膝内側の痛み」で十分です。カルテの隅でも、メモ帳でも構いません。
これを書いてから運動を選ぶと、不思議なことに、選んだ理由も、確かめ方も、自然に決まってきます。逆に言うと、運動が決まらないときは、評価が足りないのではなく、変えたい現象が決まっていないことがほとんどなんです。
次回は、所見を並べるだけでは仮説にならない、という話をします。評価はたくさん取っているのに運動が決まらない。そういう方に読んでほしい回です。
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